2017年1月8日日曜日

真珠を食べちゃいました。



東京国立博物館 表慶館

僕が本屋で手に取る雑誌は男性誌『LEON』以外に、『婦人画報』やら『家庭画報』、『Richesse』といった女性誌だったりする。そこに出ている宝石の写真を眺めるのが好きなのだ。ちょっと前に東京国立博物館表慶館でC社の新作ハイジュエリー受注会にも顔を出してみた。初めから購入の可能性などないのだから開催者にすれば迷惑な話ではある。どうかお許しを。

DATURA Necklace。センターの美味しそうな「イチゴ味の飴玉」みたいなのは、
62.15ctのオーバル・カボションカットのルビー。


そんな僕は真珠にも詳しい(きっぱり)。タヒチでは終日「黒真珠」を物色。通販では「あこや」も「白蝶」も偽物を摑まされて勉強。銀座や御徒町ではM社やT社のネックレスはもちろんのこと、製品になる前のクラスプの無い状態のネックレス素材も含め何百連と妻のために品定めし尽くした。
そんな僕が一番気に入っている自分用のパールは、如何にもいびつなブルーグレーの真珠一粒のタイピンだ。母方の祖母から譲り受けたこの真珠は、祖父母がまだ海外旅行が自由化されていない時代に日本から何度も給油を繰り返しプロペラ機で辿り着いたマイアミのお土産屋さんで買った「生きた真珠貝」をその場で開けてたまたま入っていたものと聞いている。10ドルかそこらの真珠貝から出てきたその一粒を後に18kのピンに仕立てたのだ。





タイピンのパールを覗きこんでみる。
いびつだからこその真珠層の巻きの厚さは緑や赤紫の強く複雑な干渉色を見せてくれる。
祖母がオーシャンフロントのホテルで高層階のバルコニーから見下ろした海の色がいかに美しかったかよく僕に話していたのを思い出す。話を聞くたび、苦労を乗り越え横浜での貿易業が軌道に乗り貧しくちっぽけな日本から大国のリゾート・マイアミビーチへ到達したことを実感した瞬間の「自分たちはついにここまで来たのだ。」そんな誇らしい祖母の気持ちが伝わってきた。このパールの虹色の光のはざまにそんな祖父母の輝かしい思い出と喜びが時を超えて今尚きらめいているように感じる。

たとえどんなに粗末であっても誰かが所有しているジュエリーには「想い」が詰まっている。だから、どんなに大粒で最高品質の宝石よりもその人にはかけがえのないものなのだ。DATURA(写真のルビーのネックレス)のストーリーは真っさらな頁へこれから初めて書かれていくのだ。その意味で我々のような傍観者の目にはまだ本当の輝きは映ってはいない。

さて、真珠を育む「あこや貝」。見た目は牡蠣にも似ているわけで、以前から僕は「真珠を採った後、身の部分はどうしているのかなあ?生牡蠣のように食べられないのかなあ?フライもイケるんじゃ無いだろうか?」と思っていた。
で、先日、伊勢志摩の『真珠漬け』というのを見つけたのだ。「あこや貝」の貝柱だけを酒粕に漬けた逸品で意外にも繊維が緻密でしっかりした歯ごたえのこれ、中々に旨い。  ただ、美味しい味噌ダレの味がしっかり染み込んでいるので、真珠貝そのものの味がどうなのかは自分の中で結局のところ謎のままなのだが。

真珠漬け

オフィスプロモ(株)代表取締役 古荘洋光